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思索の遍歴  ロボットと人間  ③初期条件と生成文法



 ニューラルネットワーク型のコンピューターが、基本的には人間の大脳神経系によるネットワークと変わらないものとして、ではニューラルネットワークの規模を拡大していけば、AIは人間の大脳と同等な機能を有するようになるのだろうか。
 
 この疑問を考える前に、まず立花隆が『電脳進化論』を書いた段階でのニューラルネットワーク・コンピューターの規模がどれくらいのものだったのか見てみよう。日立研究所の主任研究員である山田氏は、次のように答えている。

『このままボードをどんどんつないでいっても4000ニューロンまでは拡張可能ですし、さらにアドレスのビット数を増やすなどの改良を加えれば、もっと増やせます。しかし100万ニューロンはどうかといったら、技術的には可能でも部屋いっぱいの大きさになってしまいます。人間の大脳なみの140億ニューロンまで拡張しろといったら、物理的にはちょっとできないということになります。  』

 しかし山田氏はこれに続いて、多くの求められる仕事に対して「大体、1000ニューロンのオーダーでできてしまうんです」とも言っている。それ以上に規模を拡大しても、それを使いこなすだけの課題も、またそういう人もいないというのが、現在の水準なのだそうだ。

 しかしその物理的問題を技術的に克服したとして、ニューラルネットワーク型のAIは、人間の大脳に近づけるのだろうか? それに対して立花隆は、東京大学工学部計数工学科教授である、甘利俊一教授にインタビューしている。甘利教授というのはニューラルネットワークの基礎理論を作った一人として、世界的に有名なのだそうである。

『ニューロコンピューターは学習ができるといってもその構造は人間が与え、コンピューターが自分でやるのは、シナプスの重みづけを変化させるという、いわば微調整の部分でしかないんですね。しかも初期構造も、本当に問題解決にふさわしい構造を考えて与えたというものではない。
 ある程度の階層構造なんか持たせるにせよ、基本的にはランダムにニューロンを結合しただけです。人間の脳というのは、ああいう白紙状態から出発するのではなくて、相当うまくできた初期構造を持っているんですね。そういうものをどうやって作っていくかという問題があります。  』

 この「初期条件の巧みさ」という話しでまず僕が想起したのは、「自然言語」の問題である。例えばオウムや九官鳥は、人間の言語を模倣できる。つまり、発声と記憶能力は充分に持っている。あるいはチンパンジーやイルカは、ある程度の個数まで単語の意味を理解し、単語による指示を理解できることが判っている。
 実際、大人のチンパンジーは人間の五歳児程度の知能があるといわれている。しかし言語という領域に問題を限定するとどうだろう。人間は早ければ二歳くらいから喋りだし、そしてそれはオウムのようなまさに「オウム返し」に言葉を模倣する域に留まらない。

 人間の子供は言葉が使えるようになると、教えたわけでもないのに、次々と「新しい文」を作り出す。そしてその語彙は、チンパンジーの限界をあっさりと抜き去ってしまう。これは人間の子供とチンパンジーの、「知能」の差ではない。
 知能の上ではある部分でチンパンジーに劣る人間の子供は、非常に特殊な初期条件を持っているがために、自然言語を獲得することができると考えられる。この問題に言語学の分野から答えようとしたのがN・チョムスキーである。

 チョムスキーはこの人間が持つ自然言語獲得力の背後に、「生成文法」という機能を考えた。チョムスキーによればこれは「言語」の法則かもしれないし、また「大脳」の機能かもしれない。ただ重要なのは、複雑かつ未知の文章を構成するには、それを統御する一種の「文法的な規則」があり、それを人間は先天的に有しているがゆえに、自然言語を獲得できるのだと考えた点にある。
 この「生成文法」が複雑な言語生成をより単純な規則で統御する法則であり、チンパンジーやオウムのように言語を「模倣」するのではなく、この「生成文法」から言語を生み出すがために、人間は知能が未発達な幼児期から自然言語を駆使できるのだとチョムスキーは論じたのだった。

 このチョムスキーの「生成文法理論」は、一時、時代を席巻した。チョムスキーが極めて論争が得意なこともあり、チョムスキーの考えは非常な説得性を持って言語界や認知心理学の領域で浸透していった。
 しかしその完璧に見えた理論も、厳密な反論もあってチョムスキーは次々とそのたびに、その「文法理論」を刷新していった。しかしその繰り返す刷新の結果、「生成文法」それ自体は段々、複雑なものになっていったのである。

 そうなると、そもそもの「単純な文法規則が、複雑な言語生成を統御している」という当初の理論目的が見失われていった形になってしまった。またチョムスキーは、「大脳の一部」に生成文法を司る部位があり、それが脳科学の発達により具体的に発見される可能性を示唆していたが、それは未だになされていない。
 そういう条件が重なってか、現在ではあまり生成文法理論も省みられなくなった。しかしこれに替わる代替理論がないのも確かである。また、今後の脳科学の成果により、生成文法理論を司る部位が発見されるかもしれない。

 もし今後、この生成文法理論が大脳科学で発見される、あるいは生成文法理論がより完璧な形で整備されたら、これを構造的な形に捉えるかとが可能になるかもしれない。
 この生成文法の構造が解明、あるいは実装が可能なレベルで整備されたなら、それを初期条件としてニューラルネットワークに組み込んだAIを作る、というアイデアが可能になる。…ただし、そういう事が本当にありえるのかどうかまでは、正直、僕には判らないのではあるが。 
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