白の機体の主人公機、というと『超時空要塞マクロス』を思い出す人も多いだろう。エルガイムに負けず劣らず、シャープな線で華奢な印象のバルキリーは、その一方で大空を軽やかに飛翔する「軽やかさ」を身につけていた。
さてこのバルキリーをデザインしたのは、TVシリーズの演出・監修にも携わった河森正治である。河森といえば「AIBO」の何代目かや『サイバーフォーミュラ』のフォーミュラカーのデザイン、また昨今、パチスロと提携して有名になった『創聖のアクエリオン』のデザインと監督である。
このバルキリーのデザイン特徴は二点ある。それは「現用戦闘機に酷似していたこと」と、「ガウォーク」の形態があるということである。この「ガウォーク」とは、「足と手が生えた戦闘機」である。これが非常に画期的だった。
このガウォークのデザインで面白い話がある。河森正治はスキーに遊びに行って、スキー場でガウォークの形態を思いついたそうである。…そう言えば、直滑降の姿勢に似てるかもしれない。
実は河森正治とともに、河森が所属していた先輩である宮武一貴も案として持っていたという話が残っている。河森はスキー場で二本足のガウォークのデザインをしたのだが、宮武は四本足のガウォークを考えていたという。結果的には帰ってきてから、河森案が通った。
宮武という人は、長いことSF界で極めて有名なイラストレーターとして名をはせた人である。特に有名なのは、ハインラインの代表的傑作とされる『宇宙の戦士』に出てくる「パワードスーツ」の表紙デザインである。
このハインラインの「パワードスーツ」が、全ての『パワードスーツ』ものの原点である。また、この宇宙の戦士を最近映画化したのが、『スターシップ・トゥルーパーズ』である。実に原作発表から、50年近くたってからの映画化だった。
ちなみにこの「パワードスーツ」は、『起動戦士ガンダム』の「モビルスーツ」の語源であり、また『攻殻機動隊』で有名になった士郎正宗の代表作に出てくる『アップルシード』の「ランドメイト」の原点でもある。
そもそも日本の「SF」というもの自体の浸透には、このスタジオぬえの及ぼした影響を抜きには語れない。特に一般的にSFを浸透させたアニメの部門では、『マジンガーZ』などの透視図なども覚えがあるのではないだろうか。あれはぬえによるイラストである。
また『ゼロテスター』のメカデザイン、有名なところでは『宇宙戦艦ヤマト』や『宇宙海賊キャプテンハーロック』のデザイン協力をしている。また『勇者ライディーン』は、「ライディーン」を除いたメカデザインの全てを手がけている。
また特筆すべきは、『聖戦士ダンバイン』の「ダンバイン」かもしれない。この『ダンバイン』では、ファンタジー作品という路線は決まっていたものの、主人公メカの路線は難航していた。それを昆虫型のデザインを起こし、あの世界観を作りあげたのは宮武一貴のデザインに負っている。
スタジオぬえは『ガンダム』のSF考証、脚本にも携わった松崎健一が主体となったグループであり、そこに小説家の高千穂遥(『クラッシャージョウ』『ダーティーペア』)や、宮武、SFイラストの巨匠ともいえる加藤直行氏などが集まったメンバーである。
そして『超時空要塞マクロス』とは、このスタジオぬえによる、初めてのオリジナル企画アニメだったのだ。このいわば「大御所」であるぬえに、河森はどういう形で関わっていったのか。
ぬえは会誌『クリスタル』を毎月発行し、「クリスタル・コンベンション」というファンとの月例交流会を開いていた。まだ「SF」というものが珍しく、若く、未知で新しい世界だった頃の話しである。その頃は「SF愛好家」というものが、ごく少数だったのだ。
この「クリコン」に参加していたのが、当時まだ慶応の学生だった河森正治たちだった。ちなみにこの参加者には、「ブチデザ」で有名になる出渕裕や、タイムボカンシリ-ズのキャラデザインや、『グイン・サーガ』『吸血鬼ハンターD』のイラストで有名な天野喜孝が入っていた。
そして河森と一緒にこのクリコンを通して、スタジオぬえの事務所に出入りするようになったのが、慶応の四人組である。それは河森正治に加え、この『超時空要塞マクロス』でキャラクターデザインを手がけ一躍人気デザイナーとなる美樹本晴彦、同じく『マクロス』で脚本家デビューする大野木寛。そして『さすがの猿飛』や『ギャラリーフェイク』で有名な、細野不二彦がいた。
それまでスタジオぬえというのは、通好みの「本格SF」を主体とするグループだった。それはアニメの現場から、「ぬえのデザインは線が多すぎて、アニメートしづらい」という苦情が出るほどのものだったのである。
このスタジオぬえが、若い慶応のボンたちと生み出したのが『超時空要塞マクロス』という作品なのである。それは大胆なSF設定と、バカバカしいほどの軽さ、そしてスピーディーなメカアクションが加わった革新的な作品となったのである。
その象徴機でもあるバルキリーは、この「リアル」と「軽さ」の双方を表現している。それまでのSFアニメには、「アニメらしい」戦闘機が求められたが、このバルキリーは当時の現用戦闘機F-14トムキャットがモデルとして使われている。ここまでリアルな戦闘機デザインというのは、それまでのメカアニメにはなかった。
そして単純に「戦闘機」→「ロボット」に変形するのではなく、「ガウォーク」という途中形態を入れた新しさと空想力。このガウォークは、「リアル」と「空想」の途中形態でもあるのだ。そしてそれは古く重いSFと、新しい感性の融合形態でもあったのである。
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